ヒトゲノム計画では、なによりもまず遺伝的地図や物理地図を完成させるのを最大の目的にしているわけである。
ところで、日本におけるヒトゲノム計画は、主に文部省と科学技術庁が管轄するプロジェクトとして、多数の研究グループによって進められている。
なかでも、世界に先駆けて進められた研究として有名な機能解析法が、「cDNA解析計画」あるいは「活動遺伝子解析計画」である。
DNAのなかで遺伝情報をもっている部分は「エクソン」と呼ばれ、情報がなくジャンクDNAともいわれるイントロンに割り込まれながら点在している。
そのため遺伝子として働くときには、イントロンの部分を落としてエクソン同士を直結した姿となって、遺伝情報を発現することになる。
その情報をタンパク質の製造器官などに伝えるのが、DNAを写したネガともいえるメッセンジャーRNA(MRNA)だ。
つまり、遺伝子DNAが働くときには、情報伝達役としてMRNAが作られると考えればよい。
では、ちょうど写真のネガからポジを作るように、MRNAをもういちどひっくり返したら、何が現われるだろうか。
残念ながらイントロン部分の見当はつかないが、少なくともエクソンが直結した遺伝子DNAの姿は再現できる。
こんな発想によって、酵素をつかってMRNAをDNAに作り変えたのがcDNA(相補DNA)で、理論的には全部の遺伝子についてcDNAをクローニングできるはずである。
そしてやがては、「ヒトゲノムDNAのなかで(イントロン部分を除いた)遺伝子部分の文字配列はすべて解読できる」予定で進められているという。
こうして作られる″cDNAバンク″は、ヒトの細胞を構成している全部のタンパク質情報をもっているのが特徴で、そのなかから新しい医薬品のもととなる物質が見つかる、といった実利も期待されている。
解析研究」総括班が編集・発行している冊子『ヒトゲノム』で、前出のM氏が「はじめに」としてこんな文を寄せている。
「体がうまく組み上げられ、育ち、活動し、子孫にそれを受けついで行く生命の流れは、その指令者である遺伝情報が正しく読み取られ、順序正しく実行されてこそ途切れることなく流れ続けます。
膨大な数の情報の1つに変化が起こるだけで、わたしたちの体には様々な影響が現れます。
ヒトゲノム解析研究は、30億字に記されたヒトの全遺伝情報を解読し、ゲノムの構成、遺伝情報の制御を明らかにし、ひいては生命の流れの中におけるヒトの存在意義にまで迫ろうという壮大な計画なのです」「ヒトゲノム解析研究によって生産され蓄積される情報は、211世紀のバイオサイエンスの基盤として、あらゆる生命科学の研究に大きな影響をもたらすでしょう。
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